Cherry Blossoms †桜花†

Cherry Blossoms

†桜花†

<3>

「これにて、平成○年、第58回入学式を終了いたします。新入生の方は各教室に戻って、担任の話を聞いてください」
 先生の指示通り、新入生は席を立って、教室へと向かう。
「これに紛れ込めば、なんとかいけるかも」
「…それは…、やめといたほうがいいよ」
 弘一のせこい方法をやめさせる。
「皆が教室に入っていってから入って行こう」
「…そうだな。その前に、クラス確認しておくか」
玄関においてあるクラス表をAクラスから見ていく。一年生は五クラス、AからEクラスまである。
「あ、あった」
 弘一が、Cクラスの前で止まっている。私はまだBクラスを確認中だ。
「遙もいっしょだ」
「うそっ!!」
 急いで、Cクラスの前に行って、女子生徒のところを見る。
 (29番 橘 遙)
「本当だ」
「同じクラスだな。ヨロシク」
「こちらこそ」
 二人で二階にある一年C組に向かう。
 教室のドアの前まで来ると、先生の話が聞こえる。
「準備はいい?」
 私はスライドのドアに手をかけて、弘一に合図を送る。
「もちろん」
 ガラッ!!
 勢い良くドアを開ける。
「遅れました!!」
「すみません!!」
 私が言って、弘一が言う。二人でいれば、結構気が楽。
「入学早々、しかも二人して遅刻か?はやく席に着け」
「はい」
 教室には空いている席が二つ。やっぱり遅刻は私達だけみたいだ。
 先生のギャグを交えた話を聞いていくと時間は立って、一瞬のうちに放課後になった。
 隣の人とも、少しはしゃべることが出来た。弘一は、流石ここに住んでいることもあって、複数の人としゃべっている。
「あのさ、遙ちゃん?」
 後ろの方から、かわいらしい声が一つ。振り返ると、その声とあった容姿がそこに。
 茶髪の髪を前髪だけ残し、後は全ておだんごにしてまとめている。目もくりくりとしていて人形の目のようだった。
「私、利根 結って言うんだけど…」
(
 語尾が少しこもっている。でも、その顔には見覚えがあった。
「結…ちゃん?……結ちゃんなの?」
「分かってくれた?昔、いっぱい遊んでたよね?」
「うん、分かるよ。凄く大人っぽくなったね」
 結ちゃんは同じ幼稚園、同じ小学校で、ずっと同じクラスだった。でも私が十年前…小学一年生のときに引っ越してしまったから、それきり会っていない。
「分かってくれたんだ!!遙ちゃん、あの事件があってからすぐ引っ越しちゃって、でもしょうがないよね…」
「…あの事件??」
「おっ、覚えてないの?」
「…うん…何のことかさっぱり」
 そっか…、と目を下に向けて何気感づいたように言った。
「あんな事があれば、しょうがないよ」
「ごめん。殆どのキオクが抜けちゃってて…弘一の事も覚えてなかったんだ」
「え!?」
 そんなに驚くとは、やっぱし弘一も結構な馴染みだったのか。
「じゃぁ…この人は?」
 結は横にいた男の子を引っ張り出した。
「えっ…………んー…。長谷川…陽輔君?」

「そう!当たり!!」
「なんか、雰囲気ぜんぜん違うから一瞬誰か分からなかったよ」
 陽輔は昔、結と口げんかをしていて、止めるのが一苦労だった。
「あぁ、やっぱりあの遙だったのか」
 陽輔はとても落ち着いた性格になった。昔は結構よけいなことをよく言う皮肉野郎だったから、随分変わったのだ。
「凄い、久しぶりだね。二人とも」
 私たち三人が笑っているところを弘一は悲しんだまなざしで見ていることを私は気付かなかった。
「じゃぁさ、久しぶりに一緒に帰ろうよ。いいでしょ?」
「うん!もちろん」
 陽輔とはサヨナラをして、玄関へと向かった。
 玄関は新入生で一杯だった。下駄箱から靴を取り出そうとした瞬間。忘れ物をしているのに気がついた。
「やばッ!教室に忘れ物しちゃった」
「どうする?待っていようか?」
「んー。もしかしたら教室じゃないかもしれないから、先に帰ってもらってもいい?また今度一緒に帰ろ」
「分かった。気をつけてね」
「うん、ありがと。バイバイ」
 急いで教室に戻る。入学式となれば、上級生も午前で帰っているはずだ。とても静かな廊下の中、足音が響く。
教室のドアが開いていたので走った勢いで教室に入る。
 と、目の前で、弘一が窓側の席の前に立っていた。そこは私の席だった。
 ガタンッ!
 静けさの中に鈍い音が響く。脚を打ってしまった。さすがの弘一もそれに気付いてこちらを見る。
「あ!」
「え、えーと…ごめん。ちょっと忘れ物しちゃって」
 そういって私は逃げるように後ろのロッカーに行く。
「何忘れたの?」
 気まずいながら弘一が聞いてくる。
「んーとね…。あった。これ」
 見つけたものを手にとって、弘一に見せる。
「!!…くまのキーホルダー…」
 弘一が驚いている。
「?うん、昔から大切にしてるものなの。まぁ、お守りみたいなものかな」
「ふーん…。そうなんだ」
 弘一が目を逸らして外を見る。外からの光で、弘一がどんな表情をしているのか分からない。
「帰るか。送っていくよ」
「え、あぁ、ありがとう」
 先に動き出した弘一を見て少し慌てる。キーホルダーを鞄の中に入れてドアに腰をかけて待っていてくれた弘一のところに行く。
「よかったな」
「何が?」
 ゆっくり歩きながら弘一が聞く。今、やっとで学校から出たところだ。
「結のこと。知ってたんだろ?キオクがない割に覚えていたんだろ?全部が全部覚えてないわけじゃなかったじゃん」
「あぁー…。うん。でもね、まだやっぱ覚えていないものは結構あるんだよ。なんかそれが凄く、一番大切なキオクっていう感じがして、全部思い出したいなーなんて思ってさ。よくばりだけど…」
「ふーん…。一番大切なキオクか…。じゃぁ、俺も手伝うよ」
「え?」
「ついでに俺のことも思い出してほしいし」
 にこっと笑う弘一はなんだか悲しそうでもあった。弘一のためにも、私はやっぱり思い出さなくちゃいけないと決心を硬くした。
「うん。絶対に思い出すから」
 
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