Cherry Blossoms
†桜花†
<2>
桜並木。満開とまではいかないが、蕾がとても愛らしく見える。
「少しだけど、咲いてるな」
上を向いて、桜を眺める。そのため、少し気を抜いて歩いていた。
と、その時。
ドンッ!!!!!
「うわぁっ!!」
背中から誰かがぶつかって、勝手に倒れる。私はその場から一歩だけ前に出るという反動だったのに、その人は尻餅をついている。
「えっと。あの、大丈夫ですか?」
同じ制服。でも、男の子だ。髪の毛が少しこげ茶色で、毛をあちこちに遊ばせて、今時の高校生という感じがする。
「すみません。あの、新入生の方ですか?」
声は少し低め。中学生で変声期を乗り越えたぐらいだろうか。
まだ、腰が痛いようで、下を向いてばかりだ。
「え?あ…はい」
そういえば、今私は遅刻する常態にいる。という事は、この人も遅刻するのだろう。
「よかった。俺だけじゃない」
やっとで、顔を上げた。そして、満面の笑みを私に向ける。何者にも汚されてない、純粋な笑顔。
「!!!???」
私の顔を見た瞬間。彼は、顔を引きつらせている。
「…えっと、あの、とりあえず立ったらどうです?」
「あっ!!あぁ、……よっこらしょっと」
おじさんみたいに腰を起こす。
「俺、弘一。高見 弘一」
「あ、私は―――」
「橘 遙」
エッ?
「橘 遙でしょ?君」
「なんで、私の名前を…」
「だって、僕達知り合いでしょ?」
そんな。私はぜんぜん知らない。貴方のこと、ぜんぜん知らないよ。弘一なんて名前、聞いたことが無い。
「あ、私…キオクが…」
きっと私にキオクがないからだ。私はここにきた時のことを殆ど覚えてない。
「そっか…、でも俺は覚えてる。名前を知っている。それだけでも、確信持てない?」
「…そうだね」
確かに、貴方は私の名前を知っていた。私の顔を見たときに気付いてくれていた(たぶん)。それだけでも、私が本当にここに住んでいたこと、貴方と知り合いということも、証明になるのかもしれない。
「……て、ヤバっ!!!遅刻してるんだった」
いいムードを壊してしまうのも申し訳ないが、問題がある限り、避けては通れない。
「でも、このままだともう入学式始まっちゃってるから、途中参加になるんじゃない?」
「うぅ…それは気まずい。でも、遅れすぎてもいけないし…」
弘一は下に落ちているかばんを拾って、歩き出した。
「まぁ、いっか。ゆっくり歩こう。入学式もそんなには長くないし、軽く道草してれば自然と時間は流れるよ」
にこっ、と無邪気に笑った弘一の背中を追って、私は歩きだした。